コーチング・入門から実践まで
№2 自己評価の引き上げが人生観を変える
個人会員 長嶋みさき
今回は、仕事や学習のパフォーマンスにとって、自己評価がどれだけ重要かというお話をします。パフォーマンスと書くと漠然とした印象があり、実績、出来栄え、公演など様々な意味があって日本語一語だけへの直訳はありません。私がなじみのある航空機や艦船の世界では機械などと同様に、機体・船体の「性能」を表します。これは意外にもコーチングにおいてのパフォーマンスの意味に近く、人にとっての能力とそれを発揮する力に通じます。自身の持つ能力をどれだけ正しく理解しているか、それをフル稼働できているか、一緒に点検していくのがコーチの大事な仕事です。
実は自身の能力を過小評価する人の多さが日本での大きな課題になっています。世界諸国と比べても、日本人は自分を低く評価する傾向が著しく、また何か事が起きた時に自分を責めやすい傾向が強いとされます。もともと謙遜や遠慮が重んじられてきた日本では、自分の利点を人前で申し述べる習慣がありません。コーチングの最初に「あなたの長所と短所を教えて下さい」と尋ねると、殆どの人が短所をすらすらと挙げるにもかかわらず、長所は言い淀んでしまうということが起こります。就職の面接などで自分の利点を面接官に明解に説明することは、日本人にとっては大仕事だと思います。
近年SNSで誹謗中傷を受けた側が、その内容を苦にして悲惨な結末をたどるニュースを見聞きしますが、本来見ず知らずの人間が故意に、あるいは遊び半分で、暴力的な言葉を投げつけ傷つけてくるような投稿に反応する必要はありません。SNSに限った話ではなく、実生活においても全く同じです。本来なら馬鹿らしいと一笑に付し、一蹴すべきところです。似たことは人間社会や組織の中でいつでも起こり得ます。ここで武器となるのは自信、すなわち自己評価の高さです。
例えば企業や組織の中で、管理者が複数の職員に対して失敗や不注意を同じ言葉で叱責しても、職員の受取り方はその自己評価によって大きく変わります。新入社員が初めて注意をされた翌日に辞表を出したなど、昨今では聞く話です。一概に「最近の若者は打たれ弱い」とか「甘やかされて育ったからだ」と言われがちです。しかし自己評価の低過ぎる若者の中には、ごく当たり前の客観的な注意が恫喝にしか聞こえないという勘違いが、受け取る側の問題から起きてしまいます。「気にするな」という言葉に効果はありません。傷ついたり悩んだりした時に、人からただ気にするなと言われて気にならなくなる人はいません。それよりも自信をつけさせるには、小さくても意義のある「達成」を経験させたり、本人が分っていない長所を教えたりすることの方が有効です。必要ならば過去の栄光を表に引き出してやることも有効です。目に見えるという点では、本人にとって少しだけ難しい資格に挑戦する機会を与えることも有効です。仕事での利点と本人の興味が重なる資格なら言うことなしです。
自分の意見をいたずらに引っ込めることなく、堂々と自信を持って要望や持論を展開させる力がビジネスには必要になります。また日々の仕事を、やらされていると思わず、自ら楽しく行うことは士気の向上を生みます。このように職員の自信のレベルを上げることは多くの利点に繋がるので、それぞれに合ったやり方で採り入れて頂ければと思います。人が持つ能力を良い形で引き出し、本人にも正当な評価をしてもらい、最終的にはそれを目標達成や夢の実現に直結させられればコーチングは成功となります。自身が望む最高のパフォーマンスを誰もが実現できる事を願ってやみません。
以上