エピソード:江戸の仇を長崎で討つ

 為替がめまぐるしく変動しています。7月初めに162円になったと思ったら、今度は140円台まで戻す荒っぽい展開になっています。1ドル150円を見て、米国駐在時代を思い出しました。

江戸の仇を長崎で討つ

 上のグラフは1980年代の円ドルレートの変化を示したものですが、ヒューストン赴任時の1983年5月が¥238だったのが、85年9月のプラザ合意により、あれよあれよと円高になり、輸出はあがったりになりました。そして、事務所を閉鎖して帰国する1987年2月には¥153へと36%も切り上がりました。この時は輸出産業総崩れで日本経済崩壊みたいに言われましたが、その後、輸出から内需経済に舵を切りバブルを経て、失われた30年を迎えた事はご承知の通りです。
 さて、駐在したアメリカ・テキサス州ヒューストンは「世界のエネルギーの首都」と称される石油の街で、エクソンをはじめ私の担当するプラント機器の顧客には不自由しません。従って、同業各社も当然担当営業が駐在しています。日本にいる間は、顧客が海外にいることや、独禁法のからみもあり、営業同士、顔を直接合わせる機会はほとんどなかったのですが、狭い駐在員社会では日本人会の月例ゴルフ大会など結構な頻度で顔を合わせます。そうなると話題も近い同業者同士、プライベートでも付き合う機会が増えてきます。
 同業の営業なのでホットな案件情報についてはお互い注意していましたが、駐在員仲間として本社への愚痴とか市場情報交換など、結構ギリギリの微妙な会話をしていたと記憶しています。ある時、いつものように雑談している中でN社の駐在員の、最近ヒューストン地区の製油所に大型の機器を納入したとの話が、何となく耳に残りました。
 それから数か月後、F社のエンジニアが、定例のランチの中で同社がハイオクガソリン製造プラントを受注したとポロっとリークしてくれました。その時なぜか、何の脈絡もなくN社の件が頭に浮かびました。大型プロジェクトでは、カテゴリーごとにAVL(アプルーブドベンダーリスト=引合先リスト)をコントラクターが作成して顧客の承認を得た上で見積を依頼する流れになっており、早速メイン装置のAVL入りを目指して働きかけを開始しました。
 初動が良かったこともあり受注に至り、追加の受注も含めると最終的には10億円規模の大型案件になりました。
 N社駐在員の話が無ければF社の話も聞き流していたので、彼には感謝ですが、実はN社には日本時代にインドネシア案件で狙っていた大型装置を出し抜かれており、完成した1基500トンの装置4基他が専用のRO-RO船に乗ってヒューストン郊外のプラントの岸壁に着いたときには、「江戸の敵を長崎で討つ」ことが出来たと、感激も一入でした。

 

ヒューストン豆知識

  • 地理:北緯29,7度 鹿児島県屋久島のちょっと南位です。テキサス州の南東、カナダから続くグレートプレーンズの南端のはずれに位置し、平均標高24m、最高96mと非常にフラットな街です。カナダのカルガリー出張では、グレートプレーンの上をひたすら4時間平らな農場を見ながら飛びます。赴任後初めてのロサンゼルス出張では久しぶりに山(ロッキー)を見て感激でした。
  • 気候:気温―華氏100度(37℃)/湿度100%~0℃・・冬は基本的には温暖ですが、時々グレートプレーンをカルガリエクスプレスと呼ばれる北風が吹き降りてきます。赴任した80年代は37℃にビックリしたものですが、今や日本でも驚かなくなりましたね。
  • 言語:第1公用語(?)―テキサス語(Texan)、第2公用語―英語。ヒューストンの本屋で一番最初に目に入ったもの・・・Texan-English Dictionary。実際、普段付き合っている大手企業の社員は東部出身が多くきれいな英語をしゃべる(しかも日本人に合わせてゆっくり目に)ので、我ながら英語が上手くなったとうぬぼれていましたが、地場の中小エンジニアリング会社にプレゼンしたり、近所のBBQパーティに参加した時はこちらの話は通じるが、相手の話は“#&$%\?????“の連続でした。
  • 名所
    • ジョンソンスペースセンター:NASAの有人宇宙飛行を統括する部門で訓練もここで行われる。近くに飛行士たちが住んでいる街があります。見学コースも充実しておりアミューズセンターの様です。
    • アストロドーム:世界で初めてのドーム球場・・今は球場としての使命は終わり、歴史的建造物とされているそうです。
    • サンジャシントバトルグラウンド:テキサス義勇軍がサンタ・アナ将軍率いるメキシコ軍に勝利し、独立を勝ち取った場所です。有名なアラモの戦いから6週間後シエスタ(昼寝)中の将軍の寝込みを襲いました。米国版「桶狭間の戦い」ですね。

以上


Comments are closed.