時候 落葉の候

時候

11月の季語 「落葉の候」

個人会員  奧谷 出 

 落葉(らくよう)の候とは、木の葉が落ちる季節のこと。11月中旬から下旬に用いる言葉である1)
 葉は低温、特に凍結に弱く、また気孔があるため乾燥にも弱い。温帯・亜寒帯では秋に落葉する植物が多く、熱帯では乾季の初めに落葉するものが多いが、いずれも低温または乾燥という厳しい環境条件に耐えるために、それに弱い葉を落として休眠に入る適応である2)、といわれる。
 『ウィキペディア』では、「弱い葉を落として休眠に入る適応」といっているが、そうとは言い切れない不可思議な現象を近年通研通りで見かける。落葉した直後の欅から新芽が吹き出すのである。もっと愉快なのは、一本の木の、ある枝の葉は朽ち、別枝からは新芽が吹くという現象が見られることである。このような木は、休眠に入ったとはいえないであろう。よくても小休止。小休止してすぐに復活し活性化しているのであろうか。またはある枝は小休止し、ある枝は復活して活性化しているのであろうか? いずれにしても印象に残る不思議な景観であり、通研通りを通ると自然に欅に目をやる。

落ち葉と和歌

 古い和歌から落ち葉という言葉を探してみると意外に少なく、「落ち葉」というかわりに、「木の葉落つ」「木の葉散る」「木の葉降る」「木の葉に埋む」「木の葉も風にさそはれ」「木の葉乱れて」「木の葉波寄る」「窓うつ木の葉」「木の葉吹く」「木の葉時雨(しぐ)る」「紅葉葉雨と降る」「木の葉よどむ」などのように、同じ落ち葉でも様々に表現されている3)

 時代から見ると、『万葉集』や『古今和歌集』に落ち葉を詠んだ歌が少なく、『千載和歌集』以降に急増する。落ち葉に無常や「もののあはれ」を感じ取って歌心を刺激されるのは、平安中期以降に流行し始める浄土信仰と関連があるのかもしれない3)、といわれる。

  1. 鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて
        浮きたる心わが思はなくに (『万葉集』 711)
    (鴨鳥の遊ぶ池に落ちてきて浮かぶ木の葉のように、浮いた心はわが心にはありませんよ)
  2. 十月(かむなづき)時雨の常か我が背子が
      宿の黄葉(もみちば)散りぬべく見ゆ 大伴家持(『万葉集』 4259)
    (左注に梨が色付いたので詠んだ歌とある。)
  3. 立ち止まり見てをわたらむもみぢ葉は
         雨と降るとも水はまさらじ (『古今集』秋 305)
    (屏風絵を見て詠んだ歌) 
       
    これらの和歌からは、無常観は確かに感じられない。
      
  4. 木の葉散る宿は聞き分くことぞなき
        時雨する夜も時雨せぬ夜も(『後拾遺集』冬 382)
  5. 山里は往き来の道の見えぬまで
       秋の木の葉にうづもれにけり(『詞花集』秋 133)
  6. 散りつもる木の葉も風にさそはれて
         庭にも秋の暮れにけるかな(『千載集』秋 337)
  7. まばらなる真木の板屋に音はして
         漏らぬ時雨や木の葉なるらん (『千載集』秋 404)
  8. 散りはててのちの風さへ厭ふかな
         もみぢをふけるみやまべの里 (『千載集』冬 418)
  9. 山里の風すさまじき夕暮に
       木の葉みだれて物ぞかなしき(『新古今集』冬 564)
  10. 時雨かときけば木の葉のふるものを
        それにも濡るるわがたもとかな (『新古今集』冬 567)  

    落ち葉をかき集めることは、故人の遺文を集めて読むことを暗示する、という。
     
  11. 木の下に書き集めたる言の葉を
        別れし秋の形見とぞ見る (『千載集』雑 1105)
    (詞書きによれば、姉が弟に亡き父の筆跡を綴った歌集を返すときに、添えて贈った歌)
  12. 木の下は書く言の葉を見るたびに
        頼みし蔭のなきぞかなしき (『千載集』雑 1106)
    (その返歌)

俳句と落ち葉

 webサイト(落ち葉の有名俳句30選)より3)

  1. 百歳(ももとせ)の気色を庭の落葉哉 松尾芭蕉(『曲水宛書簡』)
    彦根の古刹で詠んだ句
  2. 待ち人の足音遠き落葉かな 与謝蕪村(『蕪村句集』)
  3. 西吹けば東にたまる落葉かな 与謝蕪村(『蕪村句集』)
  4. 焚くほどは風がくれたるおち葉哉 小林一茶(『七番日記』)
  5. 淋しさやおち葉が下の先祖達 小林一茶
    一茶の4年後に詠まれたという類似句
  6. 焚くほどは風がもてくる落葉かな 良寛(日吉神社境内 良寛落葉の句碑)
  7. 吹きたまる落葉や町の行き止まり 正岡子規(高浜虚子選『子規句集』)
  8. 団栗(どんぐり)の共に掃かるる落葉哉 正岡子規
  9. ひらひらと深きが上の落葉かな 高浜虚子(『ホトトギス』五百号記念集)
  10. 吹き上げて塔より上の落葉かな 夏目漱石(『漱石俳句集』)
  11. むさしのの空真青なる落葉かな 水原秋櫻子(『葛飾』)

  カサコソと鳴る落ち葉道母を追う 奥谷出
 (倉淵に通じる地蔵峠の昼なお暗い獣道(今では車道がある)、落ち葉を踏み締めながら夕暮れを急ぐ母と子の姿があった)

参考文献

  1. webサイト(時候の挨拶・季節の挨拶 1月~12月(上旬・中旬・下旬)の手紙やビジネスで使える例文 – 日本文化研究ブログ – Japan Culture Lab (jpnculture.net)
  2. webサイト(落葉性 – Wikipedia
  3. webサイト(落ち葉 – うたことば歳時記 (goo.ne.jp)
  4. webサイト(【落ち葉の有名俳句 30選】秋•冬に詠みたくなる!!季語を含む俳人おすすめ名句を紹介 | 俳句の教科書|俳句の作り方・有名俳句の解説サイト (haiku-textbook.com)

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