マーケッティング入門:第4回 顧客と価格

サラリーマンOBが独自の視点で解説する
マーケティング入門

第4回 顧客と価格

個人会員 金野 成男

「顧客」とは

 前第3回でドラッカーの言葉 「事業の目的は顧客の創造である」を紹介しました。
 この顧客とは、実際に商品を買ってくれる人「買い手」を指していると考えられます。マーケッティングの目的は御社の商品を知らない人(又は企業)や関心のないまだ「買い手」になっていない人を振り向かせて購買に向かわせることなので、“マーケッティング入門”では、「顧客」を「買い手」だけでなく候補者も含めて考えていきます。

 下の図は第1回に載せたマーケッティングと営業との関係図です。

マーケッティングと営業との関係図

 これは顧客を、御社から見ての親密度で顧客を分類したものですが、それと顧客の商品への認知段階との関係を表にすると、以下の様になります。

顧客の親密度と顧客の商品への認知段階との関係

 見込顧客/顕在顧客は、御社及び商品を認知しており、かつ御社自身が認識している顧客をいいます。顕在顧客の内のより認知度の高い顧客=購買の可能性の高い顧客を見込み顧客と分類することもできます。
 マーケッティングは顧客に御社および御社の商品を認知してもらい、更に購買に向って、左から右に段階を上げていく一連の活動ですが、右端の⑥休眠顧客にならないようにしましょう。また、⑥休眠顧客については、休眠の原因が商品や対応の問題により離反顧客になっている場合には対策が必要です。

「価格」とは

 価格の意味については説明するまでもありませんね。価格を決める「値付け」には皆さん日々悩まれていると思います。私は一品受注のプラント機器の営業を長く担当しましたが、予想される国内外の競合の動向、景気動向、類似案件の実績を勘案し、そして更にあの顧客ならネゴが厳しそうとかバイヤーの顔を頭に浮かべながら見積書を作成したものでした。

 景気が悪くなると、新事業・新商品探索の号令がかかるのは何処の会社でもあることかと思いますが、ある時、耐久消費財の基幹部品をOEM供給することになりました。これは事業部の強みである特殊材溶接技術が、顧客ニーズにマッチングした例で、顧客である完成品メーカーは、当社の基幹部品に残りの部品を組み立て、同社のハイエンド商品として消費者に販売していました。事業部にとっては、販売の手間が無いので、数さえ出ればそこそこ利益率も高く美味しい商売でしたが、顧客の思惑ほど数が出なかったんでしょうね、直接販売しても良い事になり、営業にお鉢が回ってきました。
 事業部にとっては始めての消費者への直接販売なので、ブランド名、価格、販売網、何をとってもわからないことだらけでしたが、良いものをお手頃価格にすれば売れるだろうと、それでも原価に二桁%の利益を乗せた十数万円の価格設定をしました。
 ところが、思ったほどは売れませんでした。この商品は完成品ベースで1万円台の実用品から、百万代のマニア用まで顧客層によって価格帯に大きな幅があります。10数万の価格設定は完成品メーカーの商品としては高価格でも、好みの部品を個別に買って組み立てるマニアにとってはローグレード品と見られたわけです。コスト的にもマニアが求めるサービスにはこの価格では対応が出来ず、安価な売り切りで量を稼ぐでもなく、フルサービスの高級品でもない、中途半端な価格設定だったと言えます、量x利益を最大化することができず、開発費を開発できなかったため、2年で撤退となりました。
 消費者むけ商品への知見不足からくるマーケッティングの失敗例でした。顧客の目的・購買力などのパラメーターによって顧客を層別し、適切なターゲットに絞ることとと、ターゲットに合った価格設定の重要性の教訓になりました。

 B2Cの例を述べてきましたが、B2Bの世界でも層別が必要です。プラント機器の例ですが、合成樹脂プラントでは多数の撹拌槽が使われており、リアクターと呼ばれる最重要な撹拌槽から混ざっていれば良いレベルの補機と呼ばれる撹拌槽まで重要度に応じて層別できます。リアクターは樹脂の品質やプラントの能力に直接かかわるので、開発段階からメーカーが協力することが多く、開発協力費を含んだ価格も補機とは高価格になります。これは、リアクターと補機では顧客にとっての価値=顧客価値が異なるからです。
 式にすると、 コスト < 価格 < 顧客価値   となります。
 当然、「顧客価値 < コスト」となると売れません。上の例は同一顧客での用途による層別ですが、業界が変わっても顧客価値が異なることが多いので、業界で層別も可能です。
 マーケッティングでは、顧客を特性により層別し、自社の商品特性がどの層にフィットするのか調査検討し、該当する層に合わせた販売目標、価格設定などの事業戦略を立てていきます。開発戦略においては、逆にターゲットとする顧客層が求める商品特性と価格を調査想定し、商品開発をすることになります。

 次回は、マーケッティング手法のSTPについて、勉強します。
 なお、マーケティングについての本考察は、私の38年間の営業・企画での経験を踏まえての私見です。

以上


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