マーケティング入門: 第2回 失敗例に学ぶ

サラリーマンOBが独自の視点で解説する
マーケティング入門

第2回 失敗例に学ぶ

 個人会員 金野 成男

 

 今回失敗例について研究します。マーケッティングの中のマーケットアナリシス(市場分析)の例です。

 事業部が主力機種に特化するため、非主力の機械機種を事業再編して子会社化することになりました。機械事業の再編に当り雑多な製品の中で何を捨てて何を主力に育てるかが、課題になっていました。
 そこでクイズです。下図の漁場で表した5つの機種があります。A~Eの内、どの市場を事業の主力市場に選びますか。
 丸の大きさは市場規模を表します。

図2-1
図2-1

 「規模だけでは決められない。」って? そのとおりですね。
 A機械は複数の競業大手がいるものの市場規模が大きく中期的に安定だと見込まれました。一方B機械は30年間市場成立と共に歩んできましたが、この10年市場縮小の一途で競合も1社になり、いずれどちらかが撤退せざるを得ない状況でした。
 事業部の判断は、Bから撤退し、Aに注力するというもので、Aに合わせた新しい製造拠点で新会社が発足しました。ところが、新会社発足1年間、Aは1基も受注できず Bは更新需要により息を吹き返してきたのです。

 “なぜ、判断を誤ったのか!”
 表面的に市場を見れば、誰でも事業部幹部と同じく、規模で数十倍のAを選ぶ判断をするでしょう。それでは両方の市場をもう少し見て見ましょう。

 A市場:市場規模は予想通り、金額ベースでは拡大をしましたが、装置が大型化し、中小型市場はかえって減少傾向で、後発の参入が困難な状況になることが読めなかったと考えられます。
  市場規模の予測:○  市場特性変化の読み:✕

 B市場:成熟市場であり新規需要は見込めないものの、更新需要期に差し掛かっていたのです。B機械は あるプラントに必須の機械であり、Bの市場規模はプラントの生産能力と需給ギャップに伴う新設需要と、機械老朽化に伴う更新需要の合計ですが、短期的な更新需要の波と、中期的な需給ギャップの拡大が読めなかったと言えます。 
  市場動向の予測:✕✕

 判断を誤った背景には、色々あったかと思いますが、機種幹部の「業界のことは一番知っている」との自負が、市場を俯瞰して客観的に見る目を曇らせたことがあったかと推測します。現実に当時、需給バランスの変化を試算した結果は実態とかなり合致していて、市場の再拡大を予測していました。また、市場規模予測とならんで、市場における自社のポジションの判断も非常に重要です。

 分析には、1)市場に関係するさまざまなプレーヤー(自社、競合相手、顧客、顧客の顧客など)の動向を客観的に判断すること、2)データを精緻に分析すること、の2点が特に重要でしょう。またその際に前提条件は明確にしておくことで、間違った場合の原因究明が容易になります。これらについては今後説明する「3C」などのマーケッティングツールが役に立つかと思います。

 ちなみに、B機種はその後、完全撤退前で技術リソースが維持できていたので、元の拠点のサプライチェーンの助けも借りながら、新拠点で軟着陸することができました。更には3年後競合相手が撤退、営業譲渡を受けたため実質1社体制になり、現在ではB機械は主力機種の一つになっています。余談ですが、このために公正取引委員会に説明に行くという珍しい経験をしました。

 次回以降、次のように進める予定です。追加変更ありです。
  3回:マーケッティングの定義
  4回:顧客と価格
  5回:マーケッティングの進め方、その1 関係するプレーヤーの関係
  6回:マーケッティングの進め方、その2 市場の区分分け、絞り込みと位置取り
  7回:事例研究2
  8回:プッシュ型営業からプル型営業への転換(デジタルマーケッティング)

                                           以上

 


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