コンピュータ性能に関する法則(2)ムーアの法則

テクニカルノート

コンピュータ性能に関する法則(2)
ムーアの法則

個人会員 新井 全勝

1.ムーアの法則と意義

 ムーアの法則とは、『ウィキペディア』のムーアの法則によると、大規模集積回路(LSI)の製造・生産における長期傾向について論じた一つの指標であり、経験則に類する将来予測である。
 発表当時フェアチャイルドセミコンダクタに在籍していたゴードン・ムーアは、僅か数年、数個のサンプルをもとに、1965年にElectronics誌に記事「Cramming more components onto integrated circuits」(「集積回路により多くの部品を詰め込む」、下記参照)を発表したのが最初であり、その後、関連産業界を中心に広まった、という。

 部品あたりのコストが最小になるような複雑さ(集積度)は、毎年およそ2倍の割合で増大してきた。短期的には、この増加率が上昇しないまでも、現状を維持することは確実である。より長期的には、増加率はやや不確実であるとはいえ、少なくとも今後10年間ほぼ一定の率を保てないと信ずべき理由はない。すなわち、1975年までには、最小コストで得られる集積回路の部品数は65,000に達するであろう。
 私は、それほどにも大規模な回路が1個のウェハー上に構築できるようになると信じている。

 1975年には、次の10年を見据えて、2年ごとに2倍になるという予測に修正した。その予測は1975年以降も維持され、それ以来「法則」として知られるようになった。
 しかし、ムーアの法則」と名づけたのはムーア自身ではなく、『Introduction to VLSI Systems』(『超LSIシステム入門』)などで知られるカーバー・ミードである。

 ムーアの法則は要約すると次のようになる。
① 半導体の集積度は、微細化技術により1.5年または2年ごとに2倍になる。
 すなわち、世代ごとに、ウェハーの同じ面積上に2倍の部品(トランジスタ)を集積できることを示している。
② 半導体の部品(トランジスタ)の価格は、1.5年または2年ごとに1/2になる。
 トランジスタの性能が同じとすると、その価格は世代ごとに半減することを示している。

2.デナード則とその意義

 デナード則は、米IBM社のロバート・デナードらが、1974年に、IEEEの論文誌に発表したもので、デナード・スケーリングともいわれる。ムーアの法則の理論的な根拠を与えるもので、トランジスタの微細化の方向性を示したもの、といわれる。

 デナード則は、kをスケーリング係数とすると、次のように説明される。

 トランジスタの寸法を1/kに微細化し、トランジスタを安定して動作させるために電圧を1/kにすると、面積は1/k2、トランジスタ密度はk2、電流は1/k、動作周波数はk倍、消費電力は1/k2、回路スイッチング速度はk倍になり、単位面積当たりの消費電力は変わらない(『ウィキペディア』デナード則)。 

 この法則によって、コンピュータの高速化、高機能化、小型化、省電力化、大容量化、低価格化などが実現されてきた。

3.クーメイの法則とその意義

 ジョナサン・クーメイは、「過去60年以上にわたって、消費されるエネルギー1ジュールあたりの計算量は約1.57年ごとに2倍になっている」という傾向があることを、2010年3月の「IEEE Annals of the History of Computing」に記している(『ウィキペディア』クーメイの法則)。
 2011年に、クーメイはこのデータを再調査し、2000年以降、倍になる期間は1.57年ごとではなく2.6年と遅くなっていることを発見した。

 この法則の意義は次の通りである。

  1. 負荷が一定ならば、同じ作業に必要なバッテリー容量は2.6年ごとに半減する。
  2. 負荷が一定ならば、計算センターの消費電力量は2.6年ごとに半減する。
  3. エネルギーの節約は脱炭素化に貢献する。

4.ムーアの法則は終焉するのか

 これまでに何度もムーアの法則は限界説が流れていて、そのたびに半導体業界はそれをなんとか乗り越えてきた。55年以上に亘ってそのたびに半導体技術者たちが解決してきたのである。
 2016年10月に実施されたイベント「QCon Tokyo 2016」において、国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授 佐藤一郎は、基調講演として「ポスト・ムーア法則時代のコンピューティング」について講演しているが、その中で、次の3点の視点から「ムーアの法則に迫りくる限界」について述べている。

① 半導体の製造技術的な限界
② 電力的な限界
③ 設備コストの経済的な限界

 以下、これらについて概観する。

1) 半導体の製造技術的な限界

 半導体の微細化について、2020年に10nmの技術が使用され、5nmが発表され、3nmの模索に入っているといわれる。
 微細化は、リソグラフィ技術(露光装置)の進化と材料の改善とによって進化してきたが、微細化の進展と共にそのスピードはスローダウンしてきており、また、特性のばらつきの問題が顕在化してきている、といわれる。

2)電力的な限界

  1. デナード・スケーリングは、2005年頃に破綻した、といわれる。微細化と共に、リーク電流が発生し、電圧を下げられなくなったのである。そのため、計算量あたりの消費電力は下げ止まりとなり、プロセサ性能が上がれば消費電力もあがるようになった。
  2. また、発熱対策も必要になってきた。
  3. 平面集積から3次元的な積層化へと進み、マルチコアプロセッサ化が進められている。さらに、マルチチップ化が進められている。
  4. シリコンに変わる材料の研究も進められているようである。

3)設備コストの 経済的な限界

  1. 微細化の進展と共に、露光装置の開発が難しくなってきており、設備工場のプラント費用が増大してきている。その費用は企業一社の投資を越えるといわれる。
  2. 原価回収するために製造最小ロットの増大化が必要であるが、プロセサ需要と最小発注数の乖離が問題である。

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