エピソード「ジャパン クオリティ」

個人会員 仲田 清

 

 「だって、ここは日本だろう。日本だけに決まっている。他の国では無理。出来ないことは、頼むわけが無い。

 今から40年ほど前、入社して10年、設計から営業に移って2~3年の頃、エクソンの検査官との会話です。

 所属する事業部の主力製品は石油・化学プラント用の装置でしたが、後発の悲しさ国内のプラントブームに乗り遅れ 海外に注力せざるを得ませんでした。事業部発足から10年、やっと認知度も上がり、サウジのARAMCO社やエクソン、シェルなどの石油メジャーが主要顧客となってきました。
 オイルショック後、中東産油国での石化プラント建設が活発化し、日本からも三菱のサウジや、三井のイランなどプロジェクトが実施されました。冒頭のエクソンのプロジェクトもサウジアラビア・ジュベイルでの大型石化プラントだったと記憶しています。通常、海外の顧客はロイドなどの検査会社が検査業務を受託し、工程全体を通じて検査を行いますが、スポットで顧客エンジニアが検査に来ることも良くあります。大型プロジェクトだったので、世界中に発注しており、この時はベンダーサーベイの一環としてお隣の国や日本の発注先を廻っていました。

 その日、午前中の検査で、かなり細かい溶接外観上のダメだしが多く、同種の海外製品の外観(かなりゴテゴテです)と比べて、やり過ぎと感じたので、牽制の意味も兼ねて、「偉く厳しいですね。他の国でも同じ要求しているの?」と聞いたところ、不思議そうな顔をして、冒頭の「だって、ここは日本だろ。・・・」の発言が出たわけです。そして「それより、今夜の宿は畳ルームで、ホットスプリングだろうな。」と、心は検査より温泉に飛んでいました。

 「ジャパン・クオリティ」神話は、現場には苦労を掛けましたが、営業面では大いに助けられました。
 通常プラント機器の発注は、全体を請負ったエンジニアリング会社が行います。また、エンジニアリング会社への発注形式には「コスト+フィー(実費+手数料)」と「ランプサム(総価請負)」の2種類があり、アジアのエンジニアリング会社を中心に後者契約が主体となっています。この場合機器発注額が、プロジェクト採算に影響する為、エンジニアリング会社は1円でも安く買おうと安いメーカーを探してきます。一方、顧客にとっては長期に不安の無い品質が関心事なので、顧客のキーパーソンに、装置の課題とそれに対する品質上の優位性をそれとなく(結構えげつなく)プレゼンすることで競合先への不安を醸し出すことにより、安価な競合を排除して顧客からの指名を得るのは、営業の醍醐味でした。
 日本経済の屋台骨を支えてきた「ジャパン・クオリティ」は、現場の職人さんたちの努力“クラフトマンシップ”の賜物ですが、今振り返ってみると、そのベースは技術者の情熱と探求心、それに答える職人の切磋琢磨の結晶、そしてその先頭に立つ工場マネージメントにあるように感じます。
 昨今あちこちで品質問題が発生していますが、その遠因には、まず技術者が職人にものづくりをお任せして、現場を見なくなり、一方職人は高齢化しており、現場を支えていた両輪が弱くなってきている様に感じます。「鯛は頭から腐る」と言われますが、特に問題を起こす会社は、マネージメントが数字だけを見て、現場に足を運んでいないのかも知れませんね。最近、大手企業で品質やシステム上の問題が数多く発生していますが、トップの姿勢が問われるところです。 

以 上


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