駐車場の標識

外国語で文章を書くとき、ほんの一言が大変な意味の違いを引き起こすことがあります。このコラムは海外事業部会のメンバーが経験をもとに連載します。



駐車場の標識

UNLAWFUL PARKING HAS A MAXIMUM FINE OF・・・・


米国の駐車場の標識

unlawful parking sign

unlawful parking sign


 身障者向けの駐車スペースでは文字表示が少なくなり車椅子のマークだけになりました。写真は2013年7月に米国オハイ オ州のシンシナティ郊外で見かけた民間多目的ビルの駐車場に立ててあった標識です。今回は二枚の標識のうち ”PARKING”の下のプレートに書かれた文面に注目して見ました。

“UNLAWFUL PARKING HAS A MAXIMUM FINE OF $500”
“Sec. 4511.99”
“ORC”

 主文は「不法駐車は最高500ドルの罰金です。」と理解できます。ところでこの日本語訳だけを見て逆に英訳しようとする時、筆者には到底この動詞の “HAS” が思い浮かびません。スペースの限られた標識板に書く文字数は極力少なくしないと文字が小さくなり離れた所からは読み難くなります。英日両方比較してのスペースは上記の通り和文の方がはるかに少ないですね。どうしても長くなりがちな英文をここまで要領良く仕上げるのは大変な技術だと感心します。


不法駐車と無断駐車との隙間に横たわるもの

 日本ではこのような「不法駐車」という警告はまず見かけないですね。日本の月極め駐車場にある典型的な看板表示は「無断駐車は罰金5万円を申し受けます」などとなっており金額はオハイオ州のこの例と良く似ています。違いは「unlawful parking (不法駐車)」と「無断駐車(unauthorized parkingと訳せます)」です。日本の「無断」が意味するのは法律に基づくとまで言わずに駐車場の管理者なり所有者の許可を得ないことを言っています。一方米国の例では、不法(法律違反)と言うからにはどの法律か、ということになりますね。そこでORC(オレゴン州修正法典)の第4511.99項(Sec. 4511.99)と記載してある訳です。

 このオレゴン州法を、インターネットでもう少し詳しく調べた結果を下記しておきます。
 まずオレゴン州法典によると、4511のタイトルは「TRAFIC LAWS – OPERATION OF MOTOR VEHICLES(交通法-自動車運転)」、4511.99のタイトルは「PENALTY(罰)」、更に読み進むと罰が適用されるものの中には4511.681「Parking on private property – prohibited acts(私的所有物件への駐車-禁止行為)」にたどり着くことができます。さらにこの詳細を読むとどういう場合に不法行為となるかが記載してあります。これが米国のオハイオ州の例です。

 日本はどうでしょうか。日本には全ての法律を分類整理した法典自体が存在せず調査は大変です。私有地への無断駐車(不法なのかどうかもそもそも分かりません)自体が公道(国道、地方道)での交通を取り仕切る道路交通法の対象ではないので、道路交通法以外の法律を探し出して対応しなければならないことになります。法律家の手を借りないと「不法駐車は・・・」と書けないですね。法律家の手を借りても、短い文章で単純に「不法」と書けないかも知れません。

 今回の法律がらみの翻訳では、翻訳の知識のみならずその事柄のそれぞれの国での適用の仕方を理解し日本の場合は法律でどうなっているか調べ、間違いない言葉を探し出す必要があることを米国旅行で教わりました。

(ZO)


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